片桐仁さん×デハラユキノリさん

片桐仁さんとデハラユキノリさんとの出会いは、偶然同じ電車に乗り合わせたとき、デハラさんが声をかけたのがきっかけ。
以来ものづくりを志す同士として交流を深めてきました。
今回は「ギリ展」高知巡回に合わせ、高知出身のデハラさんのアトリエでものづくりについて語り合いました。

高知のおすすめのご当地ものは?

片桐

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PHOTO 本棚の上には、土佐犬のフィギュア「とさ犬太」がずらり。

ぼく、デハラさんのこと、大好きなんですよ。
デハラ
最初の出会いは、電車の中でしたよね。
成田空港に向かう京浜急行で、なんか派手な格好しているひとがいるな〜と思ったら、片桐さんで。ぼくから声をかけました。
片桐
そうでしたね。デハラさんとはどこか視点が似ているんですよね。
同じ世代で、同じものを見て育ってきたから。
子どもの頃は『週刊少年ジャンプ』を読んだり、キン肉マン消しゴムとか、ウルトラマンや怪獣のソフビ(ソフトビニール製)で遊んでいたし。
デハラ
また巡回展がはじまったということで、今度は高知ですか。
片桐
そうなんです。実は今、それに合わせて高知の「ご当地もの」で作品をつくりたくて、モチーフを探しているところで。でも、高知の知識がまったくない!
それでデハラさんにアドバイスいただければと思いまして。
「高知」といえば、何ですか?
デハラ
鰹と坂本龍馬と、土佐犬、あと四万十川も。よさこい祭りもありますね。
片桐
くじらも有名だと聞きました。
デハラ
そうですね。ホエールウォッチングもできます。
海がきれいだから、ダイビングもいいですよ。
片桐
犬が好きなので、土佐犬は気になっているんですよね。
デハラ
「とさいぬパーク」では、土佐犬も見られますよ。
動物愛護の観点から、今では観光用になっていて、激しい闘いはやらないみたいです。
片桐
土佐犬って、むちゃくちゃでかいでしょ?
デハラ
「横綱」級はでかいですね。
でも、そこで実際に見られる土佐犬は、「小結」級ですかね。
片桐
あ、これ土佐犬ですね! これ、高知だとばか売れなんじゃないですか?

デハラ

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そうでもないです。もともとは高知県のキャラクターにならないかなと思ってつくったのですが、高知のえらい人にプレゼンしても、「うんうん、まあまあ、がんばってがんばって……」みたいな感じであまり共感してもらえなくて。
「とさ犬パーク」にも持っていったんですが、「デハラくん、コレ土佐犬じゃないね、ブルドックだね」と。たしかに、土佐犬はこんな顔じゃないんですよ。ちょっとブルドックと混ぜたほうが愛嬌があるかなと思ってつくったのですが……。
片桐
土佐犬を育てている立場からすると、そこはこだわりたいところだったんでしょうね。
デハラ
「体つきもなんか違う」と言われて。
そんな、ぼく海洋堂じゃないんだから、リアルさを求められても。
結局、高知空港のショップに持って行ったら、取り扱ってもらえることになりました。
片桐
地元でこのセンスを理解してもらうのはむずかしかったんですね。
あ、でも最近、高知県のマスコットキャラクターで「べろべろの神様」をつくっていませんでしたっけ。
現地ではすっかり有名人なんじゃないですか?

デハラ

PHOTO 「べろべろの神様」のマスコット。

「べろべろの神様」はお酒で失敗しないようにと願をかける神様なんですが、高知に行くと、「これつくったんだから、飲まないとだめでしょ」と言われてたいへんで。
片桐さんが高知にいらっしゃるなら、お酒のおいしいところをご案内したかったけれど、今回はタイミングが合わなくて残念です。
片桐
おいしいところ、ぜひ教えてください。高知ではやっぱり、鰹の藁焼き(たたき)は食べたい!
デハラ
高知の人は、日本一鰹食べていると思いますね。
今はちょうど戻り鰹で、脂がのっておいしい時期ですよ。
片桐
いいっすね〜。この前テレビで、「新子」(メジカの稚魚)という魚がおいしくて、高知でしか食べられないと聞きました。
デハラ
「新子」は、夏のほんの一瞬しか食べられないんですが、 あれはうまいです。

「ソフビ」の魅力と可能性

片桐

PHOTO 土佐犬のフィギュア「とさ犬太」を手に取り、
「手になじむ感じがいいですね」と片桐さん。

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PHOTO フランス「国虎屋」のおにぎりキャラクター「MARYUトラくん」。

PHOTO 「型は目が2つだけど、描いてある目はひとつという
センスもいいですね!」(片桐さん)

ところで、この土佐犬、最初につくったのはどれですか? この青いのですか?
デハラ
よくご存知で。
片桐
デハラさんカラーというと、青かピンクっていうイメージがあるんですよね。
ソフビの魅力は、やはり色にありますよね。
あとこのチープな感じ。昭和っぽいというか……。
デハラさんの作品とソフビとの親和性は高いですよね。これもいいですね〜。
もとの型には2つ目があるのに、ひとつ目で絵付けしているところもおもしろい。
デハラ
これはフランスの「国虎屋」といううどん屋さんがおにぎりを発売するというのでつくった、おにぎりのキャラクターです。全部手塗りで1000個つくりましたが、「手塗り」と言っても信じてもらえなくて(笑)。
片桐
すごい数ですよね。
デハラ
ソフビは手足を動かしてあそべるし、おふろとかにも入れられるのも魅力です(笑)。今はアート作品としてアジアでの人気が高まっていますが、絵画などにくらべて、気軽にコレクションできる楽しみがあるようです。
原型を忠実に再現するなら、ソフビよりもっといい素材があるけれど、ぼくの作品はあまりディテールを突き詰めて再現する感じじゃないので、ちょうどいいです。
片桐
いや、ディテール突き詰めていますよ。
手に持ったときのなんともいえない量感が絶妙。
これは、なかなか表現できるものじゃない。この感覚は天性のものだと思います。
実はぼくもソフビにはすごく興味があって、ソフビを使って作品つくれないかなって、ひそかにねらってるんです。
デハラ
ソフビの作品をつくるときは、原型のラインは割となだらかにつくりますね。
でも、片桐さんの作品のような細かいディテールも、結講再現できると思いますよ。
片桐
最初、ソフビ工場のおじさんと交渉しないとならないんですよね。
デハラ
そうですね。まず職人さんに「こういうのつくりたいんだけど」と相談しに行く。
「こんなのできないよー」と言われてもねばって、うまく職人魂に火をつけられればいいですね。それで職人さんが「そこをこう変えたらできるけどなー」とか「ここを分割したらいけるかなあ〜」とか言い出したら、最後には「いやー、こまったなぁ」とか言いながら引き受けてくれる。
片桐
最近はソフビ工場も少なくなってきているとか。
継承する人がいなくなってしまうのは、残念ですよね。
デハラ
ソフビ工場は中国にもありますが、日本のほうが技術力が高く、仕上げも丁寧です。
続けてほしいと思いますね。

触覚を使ってつくる立体造形のおもしろさ

デハラ

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片桐さんは今回の「高知のご当地もの企画」のように、企画やお題に添って制作することが多いんですか?
片桐
そうですね。雑誌の連載企画では月に1回コンスタントにつくっていますが、あとは最近では、各地での巡回展に合わせて「ご当地もの」をテーマに制作することが多いですね。少し前には、青森県とのコラボで、縄文の土偶をつくりました。
ぼくの場合、モチーフが決まったら、ほぼ模刻のつもりでつくります。
デハラ
細かいディテールを再現するテクニックがすごい。
これも(「カレイPhone 6 Plus」)目の当たりにすると、迫力がありますよね。
なんか説得力がある。
片桐
ディテールに凝るのは、細かい作業が好きなのと、あと、うまいって言われたいから(笑)。誰かに認められたいという承認欲求がやっぱりありますね。
デハラ
ここまで徹底的にディテールに凝ってつくっているひとは、他にいないですよ。
たとえば「こんにゃくをモチーフにお願いします」というお題を出されても、すごく魅せられるものができあがってきそうじゃないですか。
なんかこう……黒い粒まで徹底的に再現しそうな。
片桐
そういうのは好きですね。何か素材をテーマにつくるのっておもしろい。
デハラ
ぼくはもともと、大阪の芸大でグラフィックデザインをやっていたんですが、平面より立体造形の存在感ってやはりいいですよね。
片桐
ぼくも美大では版画をやっていましたが、平面だと写真で見ればいいやと思っちゃうところもあるけれど、立体造形だと、実際に手にとってみないとわからないような、その存在感がたまらない。
デハラ

PHOTO 片桐さんの作品「カレイPhone 6 Plus」に
見入るデハラさん。

そう。ぼくもこの片桐さんのこの作品(「カレイPhone 6 Plus」)の実物を前にすると、いくらでも見ていられますね。
片桐
このさわり心地、薄さ……。鼻から上を無理矢理人間の顔にしているあたり、われながら気に入っています(笑)。見ている人は、「人面魚」ってあまり気づかないみたいですが。
デハラ
美術館では展示作品にはさわれないことが多いけれど、立体造形は作者が触覚によってつくっているから、見る人も、見ながらさわっているような感覚になれるのかもしれない。
片桐
それに立体造形はやっている人が少ないから、平面よりライバルも少ないのがいいところ(笑)。
デハラ
そうですね。あと、粘土は練っているときに、たぶん脳からピコピコ、ドーパミンみたいな幸福物質が出ているのでしょうね。たとえ納得のいく作品にならなくても、快感物質が出ているから制作を続けられるのかもしれません。
片桐
子ども向けに粘土のワークショップやるときも、「うまいへた」じゃないところに意識を自然にもっていけるのはいいですね。たとえば、霧吹きを土台にして、その上に粘土を盛っていけば、何かしらの形にはなる。絵だと、子どもってなかなか描きはじめられないんです。粘土だと最初に練って手を動かしているうちに、気分がのってくる。色粘土だと色も付けられるからなおいい。
デハラ
そのワークショップ、楽しそうですね。
片桐
大学で天才といわれていた人が美術をやめていて、役者をやっているぼくが、なぜかものづくりを教えているという。
大学でうまいひとの絵を見てショックを受けて、それでお笑いの道に入ったんですが。結局、しつこく続けるのがいいんですかね。
あと、デハラさんを見ていて思うけれど、ものづくりには、センスと人間力も大事だなと。
デハラ
しつこい、というのはありますね。片桐さんは、俳優のお仕事もあるし、制作時間もなかなかとれないんじゃないですか?
片桐
時間がないなかをぬってつくっていますが、ものづくりは俳優の仕事から逃避できるからいいです。
粘土を練るのはちょっとめんどうだけれど、癒しがある。台本覚えるのは本当にたいへんで、プレッシャーがすごいんです。
頭にICレコーダーを入れられるような、電脳の時代に早くならないかなっていつも思います(笑)。

作品とストーリーは常に一体

片桐

PHOTO デハラさんの作品、ホームレスアクションフィギュア「トモロウ」。

デハラさんは立体だけじゃなくて、絵本やアニメーションにも取り組んでいて、本当に多才ですよね。
デハラ
立体作品も常にストーリーと一体な感じなので、お話づくりは苦にならない感じです。
片桐
(フィギュアを見て)これも、いいですね〜。
デハラ
その人の名前は「トモロウ」です。明日(tomorrow)にはもっといい人生をと、希望をもって生きている。猫を6匹連れています。
片桐
トモロウ、「貧」って書いてある。最高ですね(笑)。
決まった置き方があるんですか?
デハラ

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とくにありませんが、この猫は、頭にぴたっとはまるようになっています。
白人バージョン、黒人バージョンもあります。
片桐
やっぱりソフビは、色替えが魅力ですからね。
同じ型でも、色付けによって印象が全然違いますよね。
白人バージョンは「トモロウin LA」ですか? ヒッピーの流れを感じる。
なんですかね、誇り高い感じがしますね。ノースリーブで『キャプテン翼』の日向小次郎みたい(笑)。
デハラ
ロールアップがおしゃれかなと……。時代性を入れていかないと。
片桐
「トモロウ」なりのおしゃれがそこにある。「トモロウ」はどんな設定ですか。
デハラ
「トモロウ」は株をもっているのでお金はあるけれど、お金を使う生活をしたくないから路上生活をしています。
片桐
他にはどんなキャラクターがあるんですか?
デハラ
今制作しているのは、たばこをいっぱい吸っている「もくさん」。
「トモロウ」の友達ですが、「もくさん」は「トモロウ」とは違って本当にお金がないから、「おれはそんなにたくさん猫なんか飼えないんだぞっ」て喧嘩になるような設定で。
作品づくりとは直接関係ないんですが、ぼくは町でおもしろい人を見かけると、つい話しかけたくなってしまいます。
そこに何かドラマがあるんじゃないかなと思って。東京はおもしろい人が多いから、電車の中などで見かけると、思わず近寄ってしまいます。
片桐
わかります、その感覚。つい目がいっちゃうんですよね。ぼくが子どものときには、地元に「はっつぁん」という印象的なおじさんがいましたね。
自転車にレコードをくくりつけて聞きながら走っている。いつも同じウインドブレーカーを着て、ワンカップを飲んでいて。
ジュースや駄菓子をおごってくれてすごくやさしいから、子どもたちには人気がありました。
でも「ばか!」とからかうと地の果てまで追いかけてくる。こえーの。
デハラ
高知の帯屋町には商店街があって、そこには「帯屋町太郎」という名物おじさんが出没します。
いつもおなかの中にタウンページを入れている不思議な人で、ぼくの親が学生の頃からいたそうです。
片桐
「仙台四郎」みたいな。ゴロが似ている。
デハラ
そう、どこの町にも、その土地特有の有名人がいますよね。
「帯屋町太郎」のフィギュアをつくって展示したこともあるけれど、高知の人はそれを見てみんな、「あ、帯屋町太郎だ」とわかる。
「帯屋町太郎」は、帯屋町を徘徊しながら、「おいおいおいおい!」と人に声をかけて驚かすんですが、高校生の頃、逆に驚かしてやろうと思って、自転車に乗りながらすれ違いざまに「おいおいおいおい」と声をかけたんです。
そうしたら、「帯屋町太郎」がバッとふり向いて、ぼくの肩をどんと突いて、自転車ごと吹っ飛ばされました。
力がすごく強くてびっくりしました。小さい声で謝りました。一見嫌われもののように思えますが、実は町の人から愛されている人気者です。
さすがに、商店街のキャラクターとしてフィギュアをつくって量産化しようと提案したら、商店街の人に嫌な顔をされました。
「うちの商店街には、もっといいもんがあるだろう」と(笑)。
片桐

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(笑)。「仙台四郎」みたいに、商売繁盛の神として祀られるレベルになればいいけれどね。そういう人との出会いって、一種ファンタジーのように、心の中に原風景として残りますよね。「はっつぁん」もぼくにとっては、サンタクロースみたいな人ですよ。いつか「帯屋町太郎」と「はっつぁん」でコラボしたいですね(笑)。
デハラ
いいですね、愛すべき名物おじさん対決ということで、ぜひやりましょう(笑)。

※仙台四郎……宮城県仙台市に江戸から明治にかけて実在した人物。
四郎が訪れる店は繁盛するとして町の人から愛され、没後は商売繁盛の福の神として信仰されるようになった。

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